「臨、兵、闘、者……」

 恵が指で手刀を作り、縦に横に九字を切り出した。
 
 悪魔や邪気を払う秘術。

「やめなよ。無駄だ」

 一哉は鏡の顔を覗き込みながら呟いた。

「皆、陳……」

 恵の声が徐々に弱まっていく。

「比叡山の修験者や高僧ならともかく、君では力不足だ」

 恵はうつむき、涙を一粒垂らした。

「やりすぎたと思うか?」

「列……」

 恵は手を垂らし、大きく息を吐き、顔を手で隠した。

 くぐもった泣き声が、倉庫の中に、静かに霞んで消えていった。