きゃっちぼーる

 一哉は再び太陽を見た。

「無駄無駄無駄」

 薄笑いを浮かべた太陽が、そんなことを自分に向かって言っている気がして、ボールを強く握って頭を振り、また、太陽に向かいボールを投げつけた。

「やぁ」

 何の前触れもなく、緩やかな風に乗って透明な声が流れて来た。

 一哉は声が来た方に顔を向けようとして、止めた。
 
 聞き覚えのある声だった。
 
 もう会わないと決めた人の声だった。

 そしてその人も、いまさら自分に会いに来る訳がないと思っていた。

 そもそも見えないはずなのだ。

 それでも一哉は唇をかみしめ、声が聞こえた方に顔を向けた。

 もし、という期待もあった。会いたくないのに、期待していた。

 あの娘なら、そういうこともあるだろうと。