きゃっちぼーる

 一哉はボールをつかんだまま、グラウンドの隅に顔を向けた。

 視線の先には、卒業記念の植木が並んでいる。 

 何年度の卒業生が植えたのかは、長い歴史の中で、もう分からなくなっていた。

 黄緑色を紅色に変えようとしているのか、秋風が木々の葉を揺らした。

 枝から、茶色の木の葉が一枚、落ちた。

 一哉は改めて自分の周囲を見た。 

 体育の授業をするクラスなど無い。

 自分しかいない。一哉ひとりで騒がしい。

 見るものがいれば、観客がいないのに舞台でおどけているピエロに見えるかもしれない。

 風に流された黄土色の土が、グラウンドに描かれた白線を隠した。