一哉は息を吐き、教室を眺めた。

 カーテンの閉められていない窓から、太陽の赤い光が入り込み、リノリウムの床に並んだ机を照らし影を作り出している。

 黒板には、相合傘や、世界のよしぞー参上といった悪ふざけが残っている。 

 生徒たちの残り香は、微かに漂うチョークの匂いにかき消されている。

「おはよう」

 とつぜん、空気を揺らす声が響いた。

 一哉はいきなり抱きつかれた気がして、とっさに声が聞こえた方に顔を向けた。

 教室の前方、ドア側のいちばん近い席にひとり、少女が座っていた。