チャイムが鳴った。

 鏡は何事も無かったように振り返り、自分の席へ戻った。

 一哉には鏡の背中が、弱々しい老人のように見えた。

 胸の奥に、鉄の塊のような重苦しい何かが生まれた。

 とはいえ、鏡をずっと見つめている訳にもいかない。

 何を言われるか、分かったものではない。

 一哉は息を吐くと、鏡に話しかけられるまでしていたように机に伏せて目をつむった。 
 暗闇の底に、意識が沈んでいった。