蝉の鳴き声がやかましい日だった。

 教室のカーテンを、太陽の光で熱くなった風が揺らしていた。

 教室の一番後方、横に壁しかない場所、誰もが何も無いと思っている場所が一哉の席だった。

 一哉は伏せて寝ていた。

 夏とはいえ暑さは感じない。むしろ、窓から流れ込んで来る風に、微笑さえ浮かべていた。 

 その昼寝を邪魔されたのはとつぜんだった。

 誰だよ。 

 一哉は顔を上げた。

 霧がかった視界の中、誰かが立っている。

 一哉は目をこすり、改めて相手が誰か見た。
 
 少女だった。苦笑している。
 
 一哉は苦笑している理由が分からなかった。

 ただひとつ、分かったことがある。

 麻生 鏡だということだ。

 頭の中が真っ白に染まった。

 だが慌てるのはかっこわるい、落ち着けと、少女を見上げたままかろうじて口を開いた。

「見ての通り、寝ているんだけど」