「用がないなら帰れば。」
しばらく放心していた私はコウくんの声にハッとした。
「あ、そ、そうだね。何か、ごめんね。私、超KYだよねぇ。
ショートケーキかぁ。そうだよね。いつまでも子供のままじゃないもんね。好みくらい変わるよね。
モンブラン、嫌いになってたなんて知らなくて。本当、ごめんね。あ、でもどうしよう。私、モンブラン嫌いだし。無駄になっちゃうな。
あ、そうだ。荒木さん、貰ってよ。もったいないし。ここ、置いてくね。じゃ、じゃあね。」
早口でそう言うと、俯いたまま病室を出た。
ここが病院だということも忘れて駆け出した。
何度か看護婦さんに注意されたけど、そんなの気にしないで走り続けた。
止まっちゃダメ。
きっと泣いてしまうから。
そう言い聞かせて走る私は、自分の頬を涙が伝っていることに、まだ、気づいていなかった。

