サングラスは、所謂、彼のトレードマークだった。
外見は特に厳ついわけでもなく、サングラスを取ればそこいらの通行人と同じだった。
しかし、敢えて彼はそれをしなかった。
サングラス越しに見える世界の方が、今の彼には似合っていたのだ。
その日も、薄暗いレンズ越しに街を見ながら、道を歩いていた。
空は太陽が出ていて、恨めしいほどの青空だった。
彼の思考は、数年前に遡っていた。
確かあの時も、こんな空ではなかったか。
今日のように街を歩いていると、ビルとビルの間から、誰かの話し声が聞こえてきたのだ。
ビルとビルの間、簡潔に言うと路地裏である。
特に気にする風でもなく、彼はそこを通り過ぎようとした。
けれどそれは、路地裏から飛び出してきた少女によって阻止されてしまった。
危うくぶつかりそうだった彼は、少女の一歩手前で後退した。
少女は彼に気付き、ペコリと一度、頭を下げてから走り去る。
その少女は、一瞬、泣いているように見えた。
何があったのか無性に気になり、彼は路地裏に足を踏み入れる。
嗅ぎ慣れた埃っぽい匂いが、鼻を突く。