彼は手入れの済んだ銃をベルトに挟むと、電気もなにもない部屋を後にする。
こちらも愛用のバイクに跨り、彼は薄汚い路地裏から走り出す。
指定された場所は、何処かの安っぽいビジネスホテルだった。
正確に言うと、ホテルの裏手なのだが。
バイクは目立たない場所に停め、裏手に回る。
ターゲットはただ、暗闇の中に佇んでいるだけだった。
ホテルの側面に背を付け、ターゲットの様子を暫し観察していた彼は、ベルトに挟んでおいた銃を抜き取る。
サイレンサーは付けてある。
それを確認し、側面から背を放す。
一発で仕留めるため、敢えてこちらを向かせるように靴音を鳴らし、歩み寄る。
仄かな月明かりが垂れ込むその場所で、ターゲットは足音にピクリと反応する。
そしてゆっくりと振り向いた。
躊躇うことはない。
躊躇ってはいけない。
彼はターゲットが身体ごと振り返ったのを認めると、銃を握る右手を持ち上げた。
ターゲットは驚いた表情をした。
躊躇うことはない。
躊躇ってはいけない。