駅前からタクシーに乗り、その場所へと向かった。


二人にとっては、そこは甘い蜜のような思いでの場所………


それとは裏腹に、さくらにとっては、狂おしいまでに辛い別れという…

結末を迎えたところ………

しばらく東の方角へ走ると、左手に六甲の山が見えてくる。


その山裾にあるホテルだ。

山を背に建つ、そのホテルは……あれから30年も…

とうに立つというのに、まだ存在していた。

今でも、時々は結婚式があると聞き、あの時の懐かしい記憶がよみがえった…


二人の密会の場所はそのホテルの一室。


ある日、密会していた二人は部屋の窓から外を見ていた………

その時ホテルの庭を…

真っ白いウエディングドレスの花嫁が歩いていた。


それを見たさくらは…
その花嫁姿の人に激しい嫉妬を覚えてしまった。

しかし、その時の菊池は…

さくらと結婚する気持など全く無かった…


ただ、さくらとの肉体の歓楽に溺れていただけのような気がする。


そして、別れ際………

さくらに言った言葉も苦しまぎれのことであり、


本心では無かったような気がする。


しかし、そんな菊池も…

今は若くない姿で、さくらの傍らにいるのだ。


菊池の今の気持は、どんなものなんだろう。


さくらは、ふと…
菊池の横顔をかいま見た。

「さくら………

ここから見える夜景、昔も今も変わらないなあ-」


窓からは、神戸や大阪湾が一望できた。
昔と少しも変わらない。


夜ともなれば一千万ドルの夜景が輝く素晴らしいホテルだった。


二人は今、そのホテルの部屋にいる。


窓からの景色は昔のまま…だが、二人はもう若くは無い。


互いの顔にはシワが刻まれ、決して、美しいとは言えなかった。


しかし、さくらは嬉しくて愛しいと思った。


菊池がどう思うとも、かまわない………

『やっぱり、うちは、この人がええ〃

この人とは、赤い糸で結ばれていたんやわー』