二人の手は、もちろん堅く繋がれたままだ…
その橋を二人は迷うことなく、渡り切っていた…
すると、橋を渡り切った瞬間〃
また、声がした…
-この橋渡れば、
帰しゃ-せぬ〃
帰れ-ない〃
帰れ-なあい〃
その声に反応したさくらは、こう、のたもうた…
『帰りたいとは、
おもわへん…
やっと、やっと、
会えたんやから!』
さくらは…
恐ろしいくらい
うれしそうだ…
そんなさくらとは反対にさくらの自宅では…
喪服姿の孝一郎が、
寂しげに…庭の中を歩いていた。
その胸に抱かれた、さくらの遺骨に話かけていた…
-母さん、驚いたよ〃 家に帰ってきたら…
家中が夏らしく
なっていて… -
さくらは、菊池と会う約束をしてから…
家中を夏用に模様がえをしていた…
もちろん、孝一郎のためにと、幼い時に買った風鈴も 忘れずに-
何故か無性に、
そうしたかった…
だが、
まさか自分が死ぬとは、 思ってもみなかったが…
その時、
風が、吹き抜けていき…
「リ-ン、リ-ン」と、 やさしい音がした…
その風が、吹き抜けたあと 甘い花の匂いが残った…
あの花だろう…
やはり、あの花と風鈴だけが、知っていたのかもしれない…
さくらが、この家から、居なくなることを…
了


