今も恋する…記憶


さくらは、菊池に誘われるようにして、

ベッドから
起き上がり、菊池のほうへ歩きだしていた。

彼が導くままに、歩いて行くと、そこは、病院の待合室のあるロビ-だ。
彼が指を差し、さくらに教えた。その指の先には…

新聞をとじてまとめた
ラックがあるのだが…

二人で、その前に座った。 目の前の新聞が目に入った。

それにはこう書かれていた…

-5月20日、新幹線上りの、 大阪行きの車内で、死亡していた老人の身元が判明。

岡山市在住の菊池真也さん 、72歳。この老人は新神戸行きの切符を持っていた-

その新聞の記事を見て…さくらは、菊池は死んでいるのだと、思った…

でも、菊池はさくらの…横に立っている。


さくらには、この事態がよく飲み込めない…


つまり、そうだとすると二人して、幽霊になってしまったのか!


それに、ロビ-にいる人達には、さくらと菊池の姿は見えないようだ…

さくらは菊池を促して、病室に戻った。


そこには、さくらがベッドに横たわり…


顔には、白い布がかけられていた-


そして、そのかたわらでは、息子の孝一郎と妹の友利子が泣いていた。


「孝ちゃん、良かったね…お母さんに会えてね」
-うん、
ほんまに良かった。
もしかしたら、

会えなかったかも
しれへんのに

会えたんや-

細い肩を落として、
泣きながら、震えている…

さくらは、声をかけて やりたくなって-


『孝一郎、さようなら』
そう言ってみたが、
ぜんぜん聞こえては、 いないらしい…


さくらは諦めて、
そっと、息子の頭を撫でていた…


『孝一郎ありがとう。
母さん、もういくわね』

さくらは菊池の手を取り歩きだしていた…