『あの日から、
しばらくは我慢しよう…
そんな気持になって!
もう、気が遠くなるほど時間が消えてるん〃

そやけど、夢の中で 会えたことは、

消されないで記憶されてるんよ』

さくらは、その記憶の中で、生きてきたように思う…

だから、夫とは別の世界に 住んでいるのだと、
いつも自分に言い聞かせできる限り冷静にしていよう…

自分の心をかき乱されたくないからと…


だが、昼間は忙しく時間が過ぎたが、夜になり…
一人ベッドに寝ているとどうしても、菊池の顔が浮かんでくる…

すると、そんな夜はまたいつの間にか…
鏡の前にいる。

『元気でいて、
そして…またいつの日か、私を抱き締めて…
お願いやから…』

鏡に話かけている…


自分が一人で、いることを忘れてしまう…

あたかも、菊池が側にいて

抱き締めてくれている…のだと、感じていたかった。


不思議にも、そんな夜は必ず菊池が夢の中に来てくれたのだ。


優しくさくらを抱いて くれた。

夢の中での甘美な心地よさは、何とも言い表しようのないくらいだ…


ある時は、海の底にいて …四角い箱の中で抱き合った。

又ある時は、一面ビロ-ドのような、苔の上に寝ていたさくらの横には菊池がいた…


さくらは、そっと菊池の手を引っ張った…

たしかに、手の感触は あったのだが…


夢は夢、はかなく覚めてしもたん!


『うちは、いったい… いつまで夢を見たら、 ええん〃』