菊池の目がさくらを離さない。


だが、さくらの目は グラスの中のサクランボを見つめいた。


『ほんまやったら、
この人うちの気持、 わかってたんやわ』


「そしたら、 あの時の私の気持、 わかってくれてたん〃」

-うん、わかってたよ-

「そしたら、何で私を 誘わへんかったん!」


-君を誘うのは、勇気が いるよ。

つまり、処女を抱くのは 責任を伴う。

そういう、時代やった と、いうことや-


「えらい、理性が あったんやね!」


-社内恋愛とは、 そういうものなんや-

「そやけどね。
あの時は…

私には、
よっぽど魅力が無いんやと思て…傷ついてしもたわ」


-そんなふうに思ってたの、 それで、会社を辞めたん…やね-


『この人、やっぱり忘れてる…

うちにしたこと、全部わすれてるわ〃』


「そやけど、もう後の祭りやわ。

とうの昔に終わってしもたん…」


-そんなことないよ。 こうして、 又会えたんやから-


「何でそんなこと、
言うの…

もう済んでしもた ことやのに…」


-また、今から始めたら ええのやから、

僕は今日そうしたいと思たんや-

『この人、うちを誘惑
してるんやわ。

何や、頭がくらくらと してきたわ〃』


すると、菊池がさくらの膝を指でつついた。


さくらは、菊池の口から出る、次の言葉を待っていたような気がする。


-さくら、少し休もう-

さくらは、黙ってうなずいた。


もうすでに、ホテルの 部屋はキ-プされていた。


二人は無言で、その部屋へ向かって歩いていた。

もう、誰もさくらを
止めることはできない。