「どちら様ですか?」




一瞬心臓の動きが止まった気がする。



そっか、
俺はキミのことを知ってるのに、
キミは知らないんだ…。



「えっと…、俺は…レイス。」


「レイス…さん?」


それは俺の車種。


「ブルーム社のレイス…。」


「それって…、車?」


彼女が一瞬、
俺が今まで車として、
いた場所を見た。


「そう。車。

ここにあった、青い、自動車。」


「…。」


「その車が…俺になった。」


「うそ…。」


「神様に祈った。

 人間になって…したいことがあった、から。」


何がしたいのかは、
言わないことにする。


なんとなく。


さっきはさんざん言ったから、
今さら隠しても遅いかもしれないけど。


「…。」


彼女はまだ信じていない。


当たり前だと思う。


「キミにぶつかったことがある。

 去年の10月…。」


そこまで言うと、
彼女は目をまるくした。


「…ある!
 
 確かに、ぶつかったことある。

 アナタ……なの?」


「そう、俺。」


彼女は真っすぐ、
俺をみる。


いつもと一緒。


彼女が話し掛けてくれた時は、
彼女は真っ直ぐ俺を見てくれた。


俺に目なんて無かったのにさ。


「じゃあ…、何度か私が話したのも、聞いて…?」


「聞いてた。

 人間みたいにしゃべってくれた。」


俺は思っていたまんまを言った。


「そっかッ。」


彼女はなぜだか目を反らして赤くなった。