わたしの会社『ミチモト』のおっきなビルは、
マンションを出てすぐに見える。
実はこの近くのマンションは全部『ミチモト』の寮みたいなものなんだ。
こんな便利な会社ってすっごい珍しいと思う。
「美穂子、おはよう。」
美穂子、神崎美穂子はわたしの友達。
さばさばしてて、
楽しい人なんだぁ。
「おはよ。ねぇ聞いた〜?
オーナーの車が、正月早々盗まれたんだって!」
「!」
「物騒だよねっ!」
「うん…。そうだね…。」
それって…、
絶対レイスのことだ。
レイスはまだ言わないって言ってたけど、
早く言わないと大変なことになっちゃう…!
「みなさん、こんちわ〜。」
「オーナー!?」
驚いたような細江部長の声が聞こえた。
しかも…オーナー!?
「どうされたんですか?まだ正月休暇のはずでは…?」
その声を聞きつけて集まる人。
今日は通常の半分くらいの人がいる。
「そうなんやけどなぁ、車が盗まれてしもたんや。
宣伝・広告部のマンションに置いてあったブルーム社のレイスっちゅうヤツなんやけどな…。」
「まぁ!それは大変ですわね。」
自分でも血の気が引くのがわかる。
「別にみんなを疑っとるっちゅうわけではないんやけどな、何かしらんかと思ってな。」
「誰か、何か知らない?」
細江部長がわたしたちを見渡した。
「…。」
どうしよう…。
「ん?ええと、知香ちゃんやな。
どうかしたんか?
顔色がえらい悪いみたいやけど…?」
「あの…。」
「まぁ、本当!水野さん、体調が優れないのなら早退した方がいわよ!」
「そうや。
年始めから体壊しとったらあかんで!
心配せんと、はよ帰りぃ。」
本気で心配してくれているのだとよく分かった。
「…わかりました。
本当に申し訳ありませんが、早退します。」
上司二人の配慮をむげにするわけにもいかず、
わたしは早退することにした。

