「レイス〜。」


「何?」


「あのね…、ベッドがね…、一つしかないんだよぅ。」


チカはすごく困っているみたいだ。


眉も下がっていて、
口もとはとがっている。


俺を見上げる瞳はなんだか必死で、
少しだけ泣きそうで、
……何て言うんだ、
こういうの。


よくわからいけど俺の心臓はまた大きく跳ねて、
その小さな頭をなでてやりたくなるんだ。


「うん?」


何とかしてあげたい、
って思うけど、
俺はどうして困ってるのか分からないから…。


できるだけ、
笑顔で言ってみる。


「だから、どうしようかなって。」


「何が?」


…何を困ってるのかが、
よくわからないんだけど?


「だから、どこで寝ようかな…。」


…どこって、
ベッドっていうのが寝る所じゃないのか?


「あ!分かった!わたしがコタツで、レイスがベッドで寝ればいいんだ。」


コタツってさっきのだよな…、
アレは寝るものじゃない気がするぞ…。


「…二人でベッドで寝ればいいよ。」


「えっ!?」


なぜかすごく驚かれてしまった。


俺、
間違ってたかな?


「せまい?」


「さ、サイズ的には大丈夫だと思うけど…。」


「じゃあそれがいいよ。」


「で、でも…。」


余計にチカを困らせてしまったのか?


でも、
さっきとは少し違う『困った』みたいだ。


今度は顔が少し赤いから。


「俺は一緒がいい。」


やっぱり側にいたいんだ。


「…チカがイヤじゃなかったら。」


チカはやっぱり困っているみたいだ。


…そんな顔しないで、
俺はチカに困って欲しくないよ。


「…イヤ、じゃ、ないけど…、あの…。

 ちょ、ちょっと、びっくりしただけ!」


チカは笑った。


たぶんだけど…、
その笑顔はさっきの俺と一緒の意味なんだと思う。


俺を安心させようとしているみたい。


そんなに俺は、
困った顔をしていたんだろうか?


「じゃあ、一緒な?」


俺も精一杯の笑顔でこたえる。