彼女をひいてしまった時は、
目の前が真っ白になった。
――俺――
自動車である―俺―は、
軽くではあるけれど……女の人にぶつかってしまった。
所有者(オーナー)が俺から飛び出して、
彼女の様子を見た。
彼女は『大丈夫です。』と、はにかんだ。
それでも俺は大丈夫じゃなかった。
オーナーも一緒だと思うけど、
人をひいたのは初めてだったから。
「病院連れていこか?」
オーナーが彼女に言った。
「平気です!」
彼女は笑顔で答えた。
初めて見た彼女の笑顔。
「治療費、払うわ。」
オーナーはサイフを取り出した。
「いいえ、いりません。」
彼女は『ケガなんかしてませんから。』と、言った。
彼女は一瞬俺を見た。
…気がする。
「治療費なら、この車にあげてください。
……せっかく、格好いいんですから。」
彼女は俺を優しく撫でた。
「へっこんでないかな?
ぶっかっちゃって、ごめんね。」
そう言って彼女は俺に笑顔を向けた。
彼女の手から彼女の温かさが伝わった。
彼女に見つめられて、
なぜだか胸がドキンと跳ねた気がした。
おかしいな…。
俺に心臓なんてないのにさ―――。

