そんな気持ちのまま、ピッチを部屋に置いて1階へおりた。
毎日の日課をこなすために…。

あたしが中2の時、両親は離婚した。

「お母さんは、何があってもあんた達だけは連れて出るからね!」

…そう言ってたお母さんは、もうこの家にいない。

弟とあたしを連れて行ってはくれなかった。信じてたのに…
あれだけ真剣に言ってくれたのに…

家に残ったのは、お父さんとあたしとまだ小学生の弟…

お父さんはパチンコが大好きで、仕事が終わっても、真直ぐ家に帰って来ない。
毎日閉店までいるから、帰って来るのは、夜遅くなってから。

パチンコのために、借金までしてて、借金取りから家に電話がかかってくる。
毎日、家の電話が鳴る度に弟と2人でビクビクしていた。
「もしもし田中ですけど…」
『お父さんおるか?』まただ…
「いえ、まだ帰ってません…」

『うそこけや!こらぁ!おるんやろが!出さんかい!』
あまりの迫力と恐怖に、身体は震え、涙が出てくる…
「…ひっく…ほん…とに…いないんです…」
『ほんなら、帰って来たら早く金返さな今度は会社まで行くど!ってゆっとけ!』
ガシャン!…プープーしばらく受話器を持ったまま動けない。
怖い…

ーもし、今から家に来たらどうしよう…ー

あたしは、あたしはまだいい。何を言われても耐えてみせる!

でも…弟は?
まだ小学生なんよ?
弟にだけは、絶対見せたらあかん!

だから、あたしは弟に「なぁ、お姉ちゃんと約束して。家の電話は出たらあかんで。お姉ちゃんがいる時はお姉ちゃんが出るから。あんたは出たらあかんで?」

「でも、お母さんから電話かかってくるかもしれへんやん…」
弟はお母さんからの電話を待ってる。

絶対迎えに来てくれるって信じてる…
「でもな…」
言いかけた言葉は言えない。
絶対言ったらあかん…
『お母さんはあたしらを捨てたんやで』