「いえ、付き合っている人はいません。だって、アタナノコトガ、チュキダカラー」

とでも答えたかったけど、理沙に殴られる痛みが頭に浮かび、正直に「います」と答えた。

「そうなんですか。きっと素敵な彼女なんだろうなー」

北村麗華が残念そうに言った、ような気がした。


「そんなことないですよ。あいつはただの鬼ですよ。アナタノコトガ、チュキダカラー」

と言いたかったが、あとで理沙にばれたら殺されると思い「まあ」と一言だけ答えた。

「そっか、じゃあ無理だよね」

「え?」

北村麗華が突然、立ち止まった。

彼女の長い髪が風に揺れていた。





「私、大野くんのことが好きなんだ」



これは夢に違いない、と思った。

だけど、理沙に殴られてできたアザを押してみたら、痛かった。


信じられなかった。

憧れの人が自分を好きと言ってくれるなんて。

そもそも、僕がテニスサークルに入ろうと思ったきっかけは、北村麗華だった。