「――大野さん、大野さん」


名前を呼ばれていることに気付いて顔を上げた。

北村麗華が僕の顔をのぞきこんでいた。

風が冷たいことに気付いて、僕は身震いをした。


「大野さん、大丈夫ですか? 大野さんが反応しないから、みんな怒って行っちゃいましたよ」

周りを見渡すと、僕たち以外誰もいなくなっていた。

練習終了時と同じように散らばったテニスボールが、冬の風に吹かれてコロコロと転がっている。


「まったく、みんな片付けないで行っちゃうんだから。ねえ、大野さん、手伝ってくれませんか?」

「あ、はい」


顔が赤くなっていないか気にしながら返事をし、携帯をポケットに入れた。

足が震えていた。

寒さのせいばかりではなかった。

すぐ近くに北村麗華の顔があったからだ。


北村麗華は僕の憧れの人だった。