先頭車両は混み合っていた。

僕は手摺りをつかんで座席の前に立った。


北村麗華の言葉が、頭から離れなかった。


(――大野くんのことが好きなんだ……好きなんだ……好きなんだ……)


「好きなんだ!」

思わず叫んでしまい、周りの乗客がこちらを見てきた。


僕は、理沙と別れようと決めた。

憧れの人と付き合うチャンスがあるのなら、それを逃す手はなかった。

またしても頭に理沙の顔が浮かんだが、気にしないことにする。


問題は、自分からフる勇気がないことだった。

「別れたい」などと言ったら、北村麗華と付き合える体ではなくなってしまうかもしれない。


方法はひとつしかなかった。


彼女から別れを切り出させることだ。