『行きたい大学は?』
『一応国立目指してるよ』
中里君から十通目のメールが届いた。学校の話や受験の話、他愛のない会話が続く。本当は好きなタイプとか彼女のこととか聞きたいことは山ほどあったんだけど。自分からはどうしても振ることができなかった。
『すごいね!さすがだぁ』
『全然だよ、希望なだけだし。でもお互いがんばろうね』
『うん。応援してるね!』
『じゃあ、またメールするね』
初めてのメールのやり取りはこんな風に終わった。短くて本当に普通の会話だけだったけどその一行がとても貴重なものに感じた。
目を閉じると彼の真面目な表情と笑ったときに下がる優しい目つきが頭の中に映し出される。
なんでこんなに好きになったんだろう。
胸が締め付けられるような心臓が落ち着かない感じ。
こんな気持ちになったのは初めてだった。

しばらく放置してあった勉強机の上に散乱した教科書やノートを片付けようと椅子に座ると、ノートからはみ出しているピンクの紙を見つけた。杏奈からの手紙だった。
【ゆずへ
おはよう!クラスはどう?
うちのクラスは結構うるさいよ☆
クラス変わっても秘密事はなしね♪
今日一緒に帰ろうー。
あんなより☆】
三年生になってまもない頃の手紙だった。
「秘密事…」
私はその文章を見つめ、このままではいけないということを改めて実感した。