何?

どうしたの?急に。


「オレは挨拶でこんなセリフ言わねーし。自信持っていいよ」


あたしの位置からは蓮君の顔は見えなくて……。

今彼がどんな表情をしているのかなんて、想像もできなかった。

ただ、背中からは蓮君の不器用な優しさが伝わってくるような気がした。


蓮君の背中の上であたしはふいにある光景を思い出していた。


それは確かあたしが小学校2年生の頃。

学校の帰り道、遊び半分だったとは思うんだけど、クラスの男の子にからかわれたあたしは、軽く押されたはずみで通学路の脇にあった田んぼに落ちた。

服はドロだらけになったあげく、足をくじいて歩けなくなってしまったのだった。

自分達のしたことに焦った男の子達は、口々に「きたねー」なんて憎まれ口を叩いて逃げ出し、あたしはその場で泣きだした。


するとたまたま通りかかった蓮君が自分の洋服が汚れるのも気にせず、あたしを背負って家まで帰ってくれた。


今考えてみれば、蓮君はその時小学校6年生の多感な時期。

女の子を背負うなんて、恥ずかしい年頃だったんじゃないかな。

それでもそんな素振りは全く見せないで黙って背負ってくれた。

いつもの見慣れた通学路のはずなのに、蓮君の背中から見る景色はキラキラと輝いて見えた。


あの頃の蓮君はまだこんなにかっこ良くなくて、どちらかと言えば、地味でさえない男の子だったけど……。

だけどあの時、あたしは蓮君に対してくすぐったい想いを胸の奥に感じていたんだ。


今思えば、あれがあたしの初恋だったのかな。


――なんて

蓮君はそんなこと覚えてないだろうなぁ。