「なぁ…どぉーしても!行かなきゃ駄目なのか?」

 18歳くらいの少年が隣で歩いている20歳前後の青年に上目遣いで何度も何度も繰り返した質問をもう一度繰り返す。

 少年の方は、燃える様な真紅の瞳に癖毛のある柔らかいブロンドの髪を持ち、まだ若干幼さの残る顔立ちをしている。

 そして青年の方は、長身で、青い瞳に長い綺麗な黒髪を右下の方で一つに結わえていた。

「駄目ったら駄目です。いい加減にして下さいよ。私は仕方なく来ているのです。面倒なんです。これ以上言ったら帰りますから」

 青年はキッパリと少々うんざりした様子で一気に言う。しかも本気だ。

「はぁ~…」

と少年は諦めの深い溜め息を一つ吐いた。

 暗い影が差し始めた夕方。ひと気のない、草原に挟まれた細い一本の緩やかな坂道を、二人は肩を並べてのんびりと歩いていた。

 二人が向かっているのは下界との境目の門。

 何の音もしない静寂の中、二人の足音と息遣いだけが聞こえる。

 ふと、青年がそんな静寂を破った。

「もう一度言いますけど、私はただの付き添いですからね。“アレ”は自分で探して、自分でやって下さいね。前王…つまり、貴方のお父様もお一人で立派にやられたのですから。それと、早めに済まして下さい。早く帰りたいので」

 「ただの」と「早めに」という部分を強調して話したい事を全部、一方的に言う。よくそんなに喋れるなー、と少年は隣で呆れるばかりだ。

「分かってるよ」

 少年の中で内容は右から左へと流れていたが、少年は投げやりに返事をしてもう一度溜め息。

(あ~あ。面倒くさ…)

 げんなりしながらそんな事を少年が考えていると、目的地の門が遠くに見えてきた。更に少年の足どりが重くなる。

 暗い気分の少年を気にせずに、青年はずっと何かブツブツ言っていた。そのほとんどは城への文句だった。一応、王子の目の前なのに言っていい事なのだろうか?

 そんなどうしようもない1人の少年と1人の青年を門は静かに待っていた。