姉たちから受け取ったナイフを月に翳す。


月に照らされ銀色に光るこのナイフはこのあと血の赤に染まる――
そう、私が唯一愛したあの人の血、で。


出来る、だろうか。
いや、やらないと私は泡となって消えてしまう…
覚悟を決めて、あの人が寝ている寝室に忍び込んだ。














――ベッドの上には彼の他にもう一人、人影があった。
そう、彼のお妃――彼が唯一愛している人――

その姿をみるたび、息をするのを忘れそうになる。
けれど…それも今日で終わりだ。――私がこの手で彼を殺めるから――


手にしていたナイフを彼の胸に翳す。
『これで一突きしたら終わり…』
そう思った瞬間。


――彼は微笑んだ。
そして隣にいるお妃を抱いた。

その瞬間、手からスルリとナイフが抜けた。




――結局、彼を殺めるなんて出来なかった。
私が消えることよりも彼の幸せが消える方がもっと嫌。

彼に『お幸せに』と声にならない言葉をかけてから、私は一人静かに海へ入っていった――