パノと魔法使いとその仲間

やがて信号が青に変わり、トラックは身震いしてのっそりと動きだした。

すでに陽が傾きかけた片田舎の町に向かってそのトラックは走り、やがて姿は見えなくなった。

「行っちゃったね」

それを見送ったクロの肩に、いつの間に降りてきたのかマイケルがひょいと乗る。

「行っちゃったにゃ」

赤みを増した太陽が街の影を伸ばしていた。

ふとマイケルが気づいたように声を上げた。

「米子って西にあるにゃ?」

「ううん、こっちからだと東よ」

「太陽に向かって走っていったにゃ」

「そうだね……って、ええ!」

二人は思わず顔を見合わせた。

傾きかけた太陽に向かって走る。すなわちそれは西に向かって走っていることに他ならない。

そのトラックは米子に帰るのではなく米子から来たトラックだったのだ。

「いけない!」

帽子を押さえながらクロは駆け出したが、到底追いつけるものじゃない。1ブロックも走ると息を切らせて座り込んだ。

「無理にゃ」

「じゃあマイケルが追いかけなさいよ……ぜえ」

「急ぐと車に轢かれるにゃ」

そう言うとうずくまるクロの肩に再び乗り移る。

「いまキツイんだから!」

クロはその肩のお荷物を忌々しげに振り払った。どうやら本気で怒ったらしいことを悟ったマイケルは、すごすごと視界から消えた。


(仕方ないな。追いかけなきゃ……)



クロは重い足を伸ばすと、荷物を担ぎ、そしてとぼとぼとパノたちの消えた方向へと歩を向けた。

「ほら、マイケル。行くわよ!」

マイケルがどこに隠れていてもクロには分かるようだ。ビルの隙間に向けた目線の先から首をすくめた黒猫が顔を覗かせ、そして慌ててクロの後を追いかけた。



少し寂しげな街を、ちょっと間抜けな魔法使いと不思議な黒猫がその影を伸ばしながらを歩いてゆく。


昨日と打って変わって雲ひとつない空だった。どうやら明日も晴れそうである。