その日、高橋さんは軽く二日酔いだった。酒には強い方ではない。しかし弱くもない。やはり最近の夢の老人にうなされてるせいで、満足いく睡眠がとれてないのが理由だろうか。朝食も取らずスーツに着替えていると、不意に母親が顔を出した。
「義男(高橋さんの下の名前)、あんたなんか悩みとかあるかい?お母さんが聞くよ」
今日はやけに優しい。高橋さんは露骨に嫌な顔をさらけ出した。
「なんだよ急に。悩みなんかあっても言うわけないだろ。気持ち悪いなぁ」
「ならいいんだけどさ…最近あんたを助けろっていう変な夢を毎晩見るから…」 「…なにっ!」
高橋さんは手を止め、母を凝視した。嘘だろ…、なんで仲間が母親なんだよ。どんだけ滅茶苦茶な設定なんだよ。
「そ、そうなの?でもあれだ、所詮夢だからさ、そう夢さ」
「にしても毎晩見るのよ?しかもいつも決まっておじいさんが出てくるの。お母さん、あんな人知らないけどねぇ…」
「あ、とにかく会社行ってくる!遅れちゃう!」
母親の茂子は今年で54歳。早くに夫を亡くし、高橋さんをほぼ女手一つで育ててきた。勝ち気で向こう見ずなところがあり、基本的にメンタルの弱い高橋さんを何度もその叱咤激励により救出してきた、まさに高橋さんの唯一の良き理解者であり、パートナーでもある。そんな茂子も疲労が出てきたのか、去年から腰痛を患い、今は週一回は整骨院へ通うという生活を歩んでいる。
(そんな母親も戦えっていうのか?あのジジイ、とち狂ってやがる!)
高橋さんはいつもの様に国王村田さんのポスターに敬礼しながら憤怒の意を表していた。