その日は、満月の夜だった。


あたしは、いつものように、窓際で、彼が帰ってくるのを待っていた。

「彼と一緒にいたい」

そう強く思いながら。

と、満月から、不思議な光が放たれた。

あたしの体が、その光に包まれる。

気付くと、…あたしの前足が、人間の手のように変化していた。

これは…?

後ろ足で立とうとすると、いつものようにうまくいかない。

と、窓に映る人影があった。

…あれ?

いろいろと動いてみる。…
あれれ?

もしかして、…この、美しい女性は、あたし!?

暗い中、部屋の中を歩き回り、鏡を見てみる。

…あたし、だ。

もしかすると、あたしの願いを、月が叶えてくれたのかもしれない。

その時、声が聞こえたような気がした。


『真夜中の鐘が鳴ると、
 元の姿に戻ってしまう。
 それまでに、
 帰ってきなさい』


あたしは、クローゼットの中から、ご主人様の服を取り出すと、それを身に着けた。

…これでいいのかな。ご主人様がいつも着ているようにしたつもりだけど…。


今までの姿が信じられないくらい、あたしの“手足”は、スラッと長かった。

色白で、シャープな顔、ちょっぴり茶色い髪の毛、大きな胸。

ご主人様や道行く人を見ても、こんなに美しい女性は見たことがない。

テレビに出ている人だって、こんなに美しい人は、まれにしかいない。

「この姿なら、彼と一緒にいられる」

あたしはそう思って、家から出た。