修理の父は若い頃、槍一本で戦場を渡り歩いた武士であった。儀太夫と会い、意気投合してその戦陣の配下に入った。まだ血煙に咽ぶ戦乱の時代の頃である。戦乱が収まり豊臣秀吉が天下を統一してから、彼のようないくさ屋の時代ではなくなった。しかし古風な頑固さしか持たない武士達は鼻の利く管理屋に職を奪われていった。
 戦陣の働きを間近で見ていた先代はそうした彼らを大切にしていたが、代が変われば全て変わる。古性家は譜代の家老職であるから良いが、修理の父のような余所者は軽んじられたのだ。
「儂にもう食は要らぬ。このまま死んでお前を楽にしたい」
 修理は目を剥いて叫んだ。
「な・・・何を仰る!そんなことは言わないで下さい!父上が死んだら私は独りぼっちになってしまいます!」
 修理は躙り寄って涙を浮かべて父を見上げた。父はもう何も言わなかった。そして差し出された少量の粥を、咳が収まっている時に口に運んだ。