「・・・」
「この地を去れ」
「えっ!」
 修理はびっくりして父の膝元に駆け寄った。
「でも、出奔は大罪!父上に罪が着せられます」
「・・・元来、武士は土地とそこにいる百姓に懸命となる。しかし今は主家が全てを支配しておる。その家来どもの安寧を担保にしてな。その主家が安泰なれば我等も生き延びることが出来る。・・・だが、その主家が従う価値がなければそれを捨てるのも武士の本領!」
 修理はまたびっくりして思わず家の外を見た。下級武士が主家を捨てるなどという会話を誰かに聞かれれば、上意討ちの理由になろう。
「・・・これは儀太夫と昔話しおうたことじゃ」
「儀太夫・・・古性様ですか?」
 古性儀太夫は譜代家老の一人でかつて父が従った侍大将である。
 そして・・・静音の父である。