だが、修理も静音以上に剣理を極めた男であった。
 彼の足と腰も風のように動いた。
 静音の木刀が修理の肩を打つ寸前、修理の木刀は静音の左手に乗りしたたかに打った!
 静音はあっと言い堪らず左手を離した。木刀の軌道は大きく逸れ左に回した修理の木刀に絡め取られた。
 静音は左手首を押さえて修理の前に膝を突いた。
「大丈夫か?」
 修理が静音の顔を覗こうとした瞬間、
「まだ!」
 静音は右手で修理の胴着の襟を掴み右足を修理の左足後ろに付け掬おうとした。だが、一回り大きな修理の鍛え抜かれた身体は頑と動かず、自ら背中から倒れた。
 左手を庇いながらも身を立て直し片膝突いて立とうとしたが、手首の激痛に身が竦んだ。
 普段は静音を遠巻きにしている譜代の子弟が、この時ばかりはと駆け寄り静音を立たすまいとする。
 こやつらの関係にひびが入ったのだ!静音を譜代組に取り返す良い機会じゃ!
「静音!もう良い!」
「よくやった!あと少し修行すれば討てる!」
 静音は放せと叫ぶが痛みで動けない。その怒りに満ちたかんばせは、修理には限りなく妖艶に見えた。しかし居並ぶ者達は静音が修理を憎んでいるとしか思えなかった。
 もう静音はお前のものではない、とせせら笑う者どもの目を受けて、修理は道場から出て行った。