去年の早春に、修理の父の病に効く薬を取りに行こうと静音が言い出した。静音の家の馬を借り、二人で山の麓の林に弁当を持って行った。静音は家人に修理と行くと公言したので、静音を狙う道場の門弟や家臣の子弟は、兄弟の契りを確かめに行ったのかと嫉妬の念をじりじりと燃やした。
 まだ冷たい風に萌え出したばかりの木々の新芽に草々の葉。さらさらと流るる山からの雪解け水。一所懸命に我が父の為に薬草を探す静音に、修理の心は高鳴った。裾をからげた短袴から雪のような肌の太腿が見える。
 汗を土だらけの手で拭い、汚れた顔に真白い歯を見せて明るく笑う。
 眩しいほどの静音だった。
 一生友で居てくれ・・・だが、本当の儂の想い、夜な夜な静音の肉体を想像して行う恥ずかしい行為は知らぬままで居てくれ。
 弁当の握り飯を頬張りながら土手に二人で並んで腰掛けていた。ふと静音が聞いた。
「兄様。俺の髪、月代(さかやき)を剃ったほうが良いか?それともこのままのほうが良いか?」
 修理は戸惑った。月代を剃るというのは元服するということか?その美しい前髪を落とす・・・?
「儂は・・・そのままの方が似合うと思うが・・・」
 静音は横目でちらと修理を見て握り飯をもて遊びながら、
「ふうん。そうか」