修理はしばらく静音の目を見つめていたが、寂しく笑い言った。
「静音・・・前にも言った。儂は物乞いでもお前の下人でもない。お前とお前の父上が物笑いになるだけじゃ」
「人が何を言おうとどうでも良い!ここに居たくなければ静音も連れて行け!」
 修理は首を横に振った。
 一緒に行けたらどんなに良いだろう。
 だが、静音は何の不足もなく育った。一緒に住めば良いなどと短絡的な事をいうほどの世間知らずの静音が、これから宛もない旅に耐えられる筈もない。
 静音は修理が喜んで受け入れると思っていた。
 だが断られた!
 許せぬ!
 こんなに心配しているのに!
「ならばお前様を斬らねばなるまい!」
 静音は裸足で土間に飛び降り、刃渡り二尺二寸の備前長船を腰に差しすらと抜いた。それを左半身で八艘に構える。ぼろ屋ではあるが、天井は囲炉裏を掛けるため高いので邪魔になることはない。
 修理はその場で左手に刀を持って立った。そしてゆっくりと抜いて鞘を捨てた。
 中段に構え右斜めに寝かせる。左にすきを見せる。
「!」
 静音は修理に殺されようと思った。
 優しかった修理を行かせたくない。また下衆(げす)な連中に殺させたくもない。
 何故、このような事態になったのか分からなかった。俺がおなごに似た姿で生まれたのがそもそもいけないのか?理不尽なな身分の差別が何故なぜ生まれた?十年前は皆、命を賭けて戦場を走り回った同じ武士ではないか!