首領格の裕之助が静音を見て、
「静音・・・お前は居ろ。もう奴はこの道場の者ではない」
 静音はこの連中と一所にいるのが嫌だったが、何を企んでいるのか聞こうと思った。特に裕之助は自分を付け狙っていた男だ。
「さて皆の衆。修理はこの城下を出るつもりに相違ない。これは御屋形様に対する裏切りじゃ!」
 静音は驚いた。
「ま・・・まだ出奔するとは決まっていないじゃないか!」
 一人が脂ぎった顔をにやりとさせて、
「静音!お前は我等と同じ譜代の家臣の子じゃ!裏切りには上意で裁かねばならぬ!お師匠様が、そうか行くのか、と仰ったではないか!それが証拠じゃ!」
「良いか!三つに分かれる。交代で峠を見張るのじゃ!そしてそこを越そうとすれば斬り殺す!」
「駄目じゃ!私闘は禁じられている!」
「これは上意じゃ!私闘ではない!」
 静音はすくと立った。
「・・・私が修理を止める」
「何!」
 その後、下卑た笑いが起こった。
「その肉体(からだ)で止めるのか?」
 静音はそやつをぎろと睨み付けると、
「そうじゃ!修理は俺の念者じゃ!色仕掛けで止められなければ俺が斬る!」
 居並ぶ者はあんぐりと口を開けた。
 静音はこの外道な連中に、何を思われても平気だった。そして修理を自分の念者としてはじめて公言したのだ。
「俺一人で行く!付いてきたら斬り殺す!これは兄弟(ここでは艶なる兄弟、衆道の恋人を指す)の問題じゃ。それで俺が失敗すれば貴方達の計画通りやればよい」
 衆道の契りを貫いて、死に至る事件はこの時代よくある話であった。
 上意討ちとか意地のやりとりとはまた異なった世界だ。付いてくれば殺すという、狂気じみた静音の言葉はその通り実行されるはずだ。
 皆はしぶしぶ静音にまずやらせることにした。この集団での静音の剣技は一番上だった。