「・・・この度は・・・ご心労察し申し上げます・・・これは父から心ばかりの・・・」
 静音は懐から儀太夫の名が書かれた香料を出し、畳に置いて右手で修理の膝の前に出した。
 修理は、焦がれた人が思いがけずに現れた幸せを感じていた。
 修理が礼を言おうとすると、玄関に何かが投げ込まれた!
 三角帯にくるまれた石であった。遠くから笑い声と共に、
「師範代殿!お悔やみ申し上げますぞ!」
 事態が皆に伝わる前に静音がすくと立った!
 そして剣を左に持ち、玄関に裸足で駆け出し鯉口を切って外に出た。灯り一つ無い庭の前の草むらの、遠くに逃げ帰る提灯が数個見える。
「卑怯者等め!俺が相手じゃ!戻せ!」
 振り向くと皆が玄関から出てきて静音を見ていた。その目は冷たかった。静音も家老の子。逃げていった連中と変わりはない。帰れば何不自由もない生活が待っている。
 修理が静音の草履を持って出てきた。
「静音・・・今宵はこれで帰ってくれ。来てくれて有り難う・・・」
 頭を下げる修理に、静音は情けなそうな顔で下を向いた。