静音は年少の者の役割の道場の床拭きの最後の点検を終わり、手拭いに水を吸わせるために中庭の井戸に来た。
 ふと薄暗くなった庭の納屋の陰に人の気配がした。
「?」
 その陰に二人の男がいる。その一人は見覚えのある大きな体にぴんと反った背中。
 修理!
 静音は無意識に納屋を隔てている山茶花の木立に身を隠して耳を立てた。
「師範代殿・・・これで親に自慢が出来る」
「次郎三郎様。これを機にさらに精進なさいませ」
 次郎三郎が修理に小袋のようなものを渡した。修理が手を下にそれを受けるとじゃらという音がする。
 賄賂!静音は、道場での自分の感が正しかったことを知った!
 次郎三郎が得意顔で木立のそばを通り帰っていった。修理がゆっくりと袋を懐に入れながら井戸のほうに歩んできた。
 何を考えているのか目は虚ろに前を見ている。
 静音は木立から立ち上がった。
「静音!」
 修理はまた秘密を見られた!
 静音は修理を睨み低い声で言った。
「貴方は・・・このような方法で賄賂を取っていたのか!」