そう言って美奈子が実にオバサンらしい大げさな笑い声を上げると、ミルランも釣られて笑った。
「牛はね、速いんだよ。そんなイメージないだろ?」
 うーんとメルランは少し考えてから
「そうだね、馬のほうが速そうだ」
と隅のほうでクールに水を飲んでいる馬のマグレインを見ながら答えた。
「ああ、馬も速いよ。きっと風邪をひいてなけりゃ、あの日ももっと上位だったに違いないさ」
「風邪を引いてたの?」
「もちろん。じゃなきゃ、蛇になんか負けるもんかい」
 ミルランはまた少し考えてから相槌を打った。
「それはそうだね」
「だから当日は牛と虎とのマッチレースさ。そりゃ盛り上がったもんだよ。ゴールでネズミに飛び出されるまではね。そこには熱い友情と熱血のドラマが隠されていたんだよ」
 へぇ、とミルランが感嘆のため息を上げると、美奈子のおしゃべりもますますヒートアップする。
美奈子オバサンの話はきっと放牧の時間が終わる頃まで続くだろう。
 ベルウィング祖父さんの話を思い出しながら、羊も蛇に負けたことは黙っておこうと優しいミルランは思った。