「皆ちょっと聞いてくれ」
1人の中年男性の掛け声で、机に向かって仕事をしていた人達が声のした方を見た。
「また、高遠はいないのか。おい、大山、高遠はどこに行ってるんだ」
中年男性は、大山と言う男性に声をかけ、大山と言われた男性は、大袈裟に辺りを見回すと。
「トイレじゃないっすかぁ?」とだけ言った。
「しょうがない奴だな。皆聞いてくれ、今日から配属された、加納欄君だ」
そう言われて、あたしは初めて皆と出会った。
ざっと見回す限り、男性が中年男性(課長なんだけどね)を入れて、5人。女性が1人座っていたが、空席もあったので、たぶんそれが、高遠って人の席なんだろう。
「加納君、席は大山の隣に座ってくれ」
課長に言われて、あたしは、無表情で大山さんを見て、無言で隣の席についた。
「大山、しばらく加納君と組め」
課長の声が、背後から聞こえた。
その瞬間に、大山さんはあたしと入れ代わりに立ち上がり、課長の所までズカズカ歩いて行くと。
「課長、冗談は顔だけにして下さい。オレはタカと組んでるんですよ。遠慮しときます。ガキのオモリは苫利でいいじゃないですか。ガキはガキどうし、ね」
大山さんは、明らかにあたしと組むのが迷惑そうだった。
「命令だ。それとも、この前の喫茶店の硝子代5万払う気になったか?」
課長が大山さんをジロリと見て言った。
大山さんは、何か言いかけたけど、課長の言葉に無言で席に戻って来た。
課長と大山さんが話しをしている間に、あたしは他の人と挨拶を交わし終えていた。
苫利さんは、あたしよりは年上だけど、1番若い男性だった。
吉井さんは、人の良さそうなお父さんタイプの男性。
鮎川さんは、少しオタクっぽく見える男性。
麻木さんは、紅一点で、綺麗なおしとやかそうな女性。
そして、大山さんは、ガキ大将のような男性だった。
大山さんは、席に着くとドカッと椅子に、ふんぞり返った。
「よろしくお願いします。加納欄です」
あたしは、他の人と同様に笑顔なく、大山さんに挨拶をした。
大山さんは、チラッとあたしを見ると。
「……行くか」
ため息まじりに呟き、椅子から立ち上がった。
そして。
「行くぞチビ」
そっけない態度で言った。
……チビ?
あたしのこと?
あたしは、無言で後について行った。
苫利さんと目が合い。
「頑張れ」
と、言われた。