この辺で、手を打っとかないと、相手がいる間に決めとかないと、歳をとってからでは、もう取り返しのつかない事になるだとさ…。
相手は、ちょっと名の知れた画家で、庭付きの家も持っているだとさ…。
早くに妻を亡くし、子供はいないだとさ…。
20程も歳上だから、上手くいけば、ジジイ亡き後、財産は全部こっちのもんだとさ…。
と、お袋の熱い語りは止まらなかった。
「お前の生活費、学費も卒業するまで全部出してくれるって、こんなチャンスはないだろう?母さんだって、もうそろそろ楽したいよ……」
最後は、泣き落としになった。
それから後、あまりにも長く住んだ二人の城を後に、お袋はあっさりと家を出て行った。
俺と酒と、精液の染み込んだソファーを踏み台にして、お袋は、処女のような初々しい面で、嫁いで行きやがった。
それから、家賃を含めた生活費に学費は、毎月ちゃんと振り込まれた。
最後の最後に…勝ち組に収まったな、お袋、おめでとうよ。
古道具の体を買い取った初老の男…このジジイの馬鹿げた優しさに、俺は苦笑した。



