と…客の下敷きになっていたお袋が…鬼か…夜叉…のような、怖くて冷たい目を向けて、俺に言った。
「二階へ行ってなさい!早く、上に行きなさい!」
その時、お袋の上にいる客の尻が、むき出しになっている事に気付いた。この尻の小刻みな動きが、この現実の全てを物語っていると………10歳の修行僧は……その時、おぼろ気に悟った。
毎日アルコール浸けになりながらも、あらゆる男を相手にしながらも、それでも、お袋は俺を育て上げた。
家事全般があまり得意でなかったお袋の愛情表現は、お金でしかなかった。
欲しい物は何でも買って貰え、客からも、面白いくらいチップが貰えた。
その上、朝の乱れ散らかった店内には、お金があちこちに落ちていた。
金は降って湧いてくる物。
小金持ちの子供の周囲には、自然と連れが集まってきた。
それから仲間達の間で、小学、中学、高校と、俺の容姿は、人とかけ離れている事に、特別な事に気付き始めていった。
どこにいても、いつでも女の視線を感じた。
バレンタインチョコの数は、毎年半端な数じゃなかった。
そのままどさっとお袋に渡すと、大喜びし、客の当座のつまみはチョコだった。



