リコ……お前、タバコは吸った事ないって言ってたじゃん…俺が吸ったら、煙そうな顔してたじゃん……。
リコ……お前、どこの劇団に所属してんだよ、いったい……。
見つめ合った時間は、ほんの数秒だったかも知れない。
でも俺にとっては、長い長い時間が経過したような……そこには人生の3分の1が凝縮されているように思えた。
立ちかけた翔の首を、細いリコの腕が引き寄せた…そして、耳元で何かコソコソと囁いている。
俺は、その場に立ち尽くしたまま、身動き一つとれなかった。
と、翔さんが言った。
「仁、悪いな、さっきの席に戻ってくれ、ここはもういいから」
そんな事言われても、足が動かない…固まったまま…動けないや…俺の口から…微かに言葉が出た。
「リコ…何で……」
リコは、またすーっと細い二本目の煙を吐き出し言った。
「何?いつまで突っ立てるの?お金の事?それなら、また私から連絡するわよ。今は私、ここの客よ。あなたには座ってほしくないから、向こうに行ってよ」
リコの目は、鬼のように怖かった。



