●吉田ひなこ●

私の人生は、名前が悪かったのかも知れない…。

お雛さまの様に、気品高く美しくなってほしいと願った、母の命名だが…本当に今となっては…この名前に憎しみを抱くようになった。

母は父の2号、古い言い方をすれば、私は妾の子供。

認知さえ許されなかった、法律上では、父無し子…。

平日、父が家に帰って来る事はなかった。

お仕事で忙しいのよとか、出張に行っているからねと、私はうまく誤魔化され、騙されながら幼女時代を過ごした。

週末には、たくさんの紙袋を抱えた父が、出張先から帰って来る。

ドアを開けた瞬間に、優しい顔をした父が、そこに立っていた。

一目散に走って行った私を、父は抱き上げ、その場でくるくる廻す。

   目が回った。

気分が悪くなるくらい、私は父という乗り物に酔った。

紙袋の中には、たくさんの食料品が入っていて、母子二人、一週間では食べきれないくらいの量を冷蔵庫に詰めた。

まだ先週の分も残っていると言うのに…そうゆう訳で、吉田家の冷蔵庫は、いつも満腹状態だった。

母の好きだった地酒にカニ缶は、毎回必ず欠かされる事はなかった。