「綺」
「ん?なに――」
振り向いたあたしの唇に、
陵の唇が優しく触れた。
思わず俯くあたしに、陵は優しい笑顔で続けた。
「一生忘れられない記念日にしてやるから。
楽しみにしてろよ?」
そう言った陵の笑顔を、あたしは一生忘れることはないと思う。
「じゃあー…楽しみにしときます」
そう答えたあたしの唇に、もう一度陵の唇が触れる。
目が合って、あたし達は笑い、また唇を重ねた。
こんな、たわいもない時間が好きだった。
こんな、小さなことでも幸せだった。
どんな、些細なことだって嬉しかった。
この幸せが、当たり前のようにずっとずっと続いていくのだと。
そう、思ってた。
そう―――信じていた。

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