運命の弄び

お店の部分は今俺がいるスペースだけで、
カウンターの奥は居間や二階に続く階段への廊下が見えていて、
その居住スペースに薺さんの家族が住んでいる。

「今日はいいから……香澄に会ってやってほしいんだ。
零二くんの事心配してたから……」

「香澄が?」

香澄(かすみ)とは薺さんの娘だ。

……薺さんの顔が曇る。
その理由はすぐに察しがついた。

「香澄……最近元気が無くってね。
元気付けてやってほしいんだ」

「……わかりました。
俺で元気付けられるか分かりませんが、
せめて話し相手にはなってあげられると思います」

察したからこそ、
直ぐに返事を返した。

「悪いね……本当ならアタシの役目なんだけどね…」

眉を下げる薺さん。
笑みを浮かべてはいるが、
内心は悲痛な思いなのだと言葉の調子から伺える。

「香澄は二階ですか?」

「ああ、部屋で寝てる。
行ってやってよ。
待ってるから」

「はい、それじゃお邪魔します」

俺は靴を脱いで廊下に足を踏み入れた。