運命の弄び

みだしなみを一応整えた俺は、
そのまま洗面所を出た。

玄関では眉を吊り上げた真希が、
しゃがみ座りをしながら、いかにも機嫌悪そうに頬を膨らませている。

「終わったの?」

「悪い、もうちょい待ってくれ」

短く一言で聞いてくる真希に、
顔の前に手を合わせて苦笑いしながら懇願する。
すると、
真希が呆れたように頬を膨らませていた空気を吐き出した。

「あんたねぇ……、
全く用意が出来てないわけ?」

「いや、
用意はもう出来てんだ。
ただ……」

居間の入口前に立ち止まって、そこで一呼吸入れるようにして言葉を区切る。
怪訝そうな表情を浮かべる幼なじみ。

「……姉さんたちに挨拶してくるよ」

「あ……っ」

小さく笑って言葉を紡ぐと、
真希も何かを悟ったように声を漏らした。

「すぐ済ませるから」

「ううんっ、……ごめん。
……ゆっくりでいいよ」

真希も優しく微笑み返してくれた。

「……悪いな」

真希の気遣いに感謝しながら、
俺は家族のいる居間の奥の部屋の座敷に行く……、
はずだった。