運命の弄び

『くすくす……さようなら』

膝をつきうなだれている私を一瞥すると、
再び踵を返すミューズ。
私を残して再び歩き出す。

「……それでも……てる」

『あら?
何か言ったかしら?』

私が小さく呟いた言葉がミューズにも聞こえたのか、再度足を止めた。

「……それでも私は『信じて』るっ!
あいつのこと信じてるっ!
あいつと過ごした十五年を私は信じるっ!!」

私は叫んだ。
ミューズによって徹底的に剥がされた『私』を必死に庇うように。
何より私自身に言い聞かせるように。

咳を切ったような涙が、
眼下に広がる深淵の奈落へと落ちていく。
それを見下ろしながらミューズは身体をこちらへ向き直す。

『……一つ忠告してあげる。
あなたが愛して止まないその人に対する想い。

……それを持つのはあなた一人じゃ無い』

「え……?」

涙に濡れた眼を開いて、
ミューズを見上げる。

『鳴瀬千鶴……森智恵美。
この二人の事はあなたも知っているわね?』

「千鶴ちゃんともっちー……?」