つまり、
ここにいる私は、
肉体としての私ではなく、
精神、意識が、
私という形を象っているのに過ぎないのではないだろうか?

『くすくす……ご名答』

私の心を見透かしたかのようにそう呟くミューズ。
すると、
黒い影でしか無かったミューズが動き始めた。
こちらに向かって歩いてくるかのような影の動き。

現に影は徐々に大きくなり近づいてくるようだ。


私は思わず後ずさった。

『ふふ……警戒しないで?
私はあなたとお話がしたいだけなのだから』

「は……話?」

警戒するな、
と言われてもあの影が何者かが分からない以上、
簡単に気を許すわけにはいかない。
私は影が一歩近づくごとに、
私も一歩、歩を退く。

『くすくす……随分と臆病なのね。
まるであなたの本質を表しているかのよう……くすくす……』

黒い影の自分より低い者を見下すかのような笑い。

……そのうちに妙なことに気付いた。

相手が一歩進めば、一歩下がる。
これで二人の距離は一定に保たれるはずだ。
しかし……。