『……ふふふ、
そう、怖がらなくていいわ』

「え……?」

少しの間を置き去りにして、
ようやく影が口を開く。
大人びた女性の声。
しかもその声は私の耳を通して、
ではなく、
私の意識、心に直接語りかけてくる感じだ。

『はじめまして。
私の名前はミューズ。
よろしくね、千歳真希』

「ミュ、ミューズ?
ていうか、なんで私の名前を?!」

ミューズと名乗った黒い影。
名乗る前から名前を呼ばれ驚愕するように声が甲高く響く。

『……簡単よ。
私には“ヒト”の心を見通すことが出来るのだから。
……あなたも私の声を耳ではなく、
心で感じているのではなくて?』

「私の心を……見通す……?」

確かにミューズという女の声が、
心にさっきから響き続けている。
これは気のせいではない。
ミューズの言う通り、
ミューズは何らかの方法で私の心に直接語りかけているのだ。

……いや、
その心というものが、
現在、ここにいる私なのかもしれない。