彼と彼女

「何黄昏てんの。そんなにツナマヨ食べたかった?」

染川の弁当から強奪したたこさんウィンナーを無言で咀嚼してたら染川が哀れむような目で俺を見ていた。

「いや…、べつに。ってかお前もう予鈴鳴るぞ。」

時計を指差すと染川が携帯のディスプレイを覗く。校内では携帯は使用禁止なんだけどなぁこの野郎。

「あ、ほんとだ。」

「おまえなぁ、俺が教師だってと忘れてるだろ。」

「没収するの?あたしの携帯の中身チェックするつもりなんでしょ、セクハラ。」

「いや意味わかんねぇし。誰がそんなことするか。」

頭を軽く叩くと、染川は楽しそうに笑う。何が面白いのか意味がわからん。

「それじゃあ、また6限目に会おう。」

「あぁー、6限おまえんとこのクラスか。」

5限は空き授業で、6限どこかのクラスが入ってたはず。

「先生、原版探しといてね。」

ドアに手をかけながら、染川は俺のほうに振り向いて思い出したようにそう言った。

「あー、はいはい。」

忘れてた。

「あとでないとか言ったら泣いて一生うらむからね。」

「ちゃんと探しとくっつってんだろ。さっさと戻れ。」

予鈴がなった。あの版画に固執する意味もわからん。

「やば、次体育だ。」

そう言い残して走り去る染川。ドアは開けっ放し。

本当に飯食いに来ただけなのか、前に言ってた原版のこと言いにきたのか。あいつの考えてることはマジで読めない。

準備室に備え付けてあるポットでコーヒーを淹れる。眠くならないように。俺はそれを飲み干すと染川に頼まれていた版画の原版を探しにかかった。

      -END-